ゆとり横断者用ボタンを押していた人に訊いてみました。
関連記事:「ゆとり横断者用押しボタン」というものをご存知でしょうか?
今日、信号待ちをしていると、
その信号機の傍らにあった「ゆとり横断者用ボタン」を押す方がいらっしゃいました。
見るからに健康そうな人です。
見た目、男性・中年以上年輩未満・痩せ型・身長160センチ程・スポーツ新聞のようなものを携帯。
私「あの、ここって押しボタン信号なんですか?」
彼「ええ……」
私「そのボタン押さないと、青にならないんですか?」
彼「ええ……」
私「ここ渡るとき、いつも押してらっしゃるんですか?」
彼「ええ……」
そのタイミングで青になり、彼は元気よく道を横断して去っていきました。
そのボタンの本来の意味を教えて差し上げることが目的ではなかったので、
あくまでも、教えてもらう立場に徹しました。
会話の内容を文字通りに受け取るならば、
彼は「ゆとりボタン」のことを、いわゆる普通の押しボタン式信号のボタンだと思い込んでいたようです。
でも返事が「ええ……」だけで、一度も目が合わなかったので、私の話は聞いていなかったのかもしれません。
(携帯していた新聞を読んでいたわけではありません)
普通の押しボタン信号だと思い込んでいる、というのは、
ゆとりボタンを押す理由として、真っ先に思い浮かんでいた可能性です。
私の話を聞かずに上の空で返事をしていただけだったのだとすると、
私の質問は、誘導尋問のような役割を果たしてしまったのかもしれません。
つまり「押しボタン信号だと間違えているのだろう」という私の思い込みに誘導するような質問にしてしまっている。
ただ、今それを言っても仕方がないので、
そうした可能性を念頭に置きつつ、ひとまず会話の内容を文字通りに受け取って話を進めることにします。
さて、彼は「ゆとりボタン」を普通の押しボタン信号のボタンだと思っていました。
どうすれば、そんな間違いをすることができるのでしょうか?
新聞を持っていたということは、おそらく字が読めないわけではない。
そのボタンのところに、でかでかと「これは体が不自由な方のためのボタンです」と書かれているのに、
どうしてそれを読めないのか?
そこを渡るときにいつも押しているとのことですので、
おそらく他の横断歩道の「ゆとりボタン」も、いつも押しているのでしょう。
今までずっと、押しボタン信号のつもりで「ゆとりボタン」を押し続けて生きてきたのでしょう。
なぜ、気が付かない?
大きな文字で簡潔に説明が書かれている。
色も全く違う。
ボタンを押したときの音も違う。
どういうふうに認識しているのでしょう?
「押しボタン信号のボタンって、たまに色違いのがあるよね」
ぐらいの感覚?
書いてて気が付いたのですが、
この認識の場合、あくまでも「押しボタン信号」という思い込みから出発してて、
しかもその思い込みが覆るチャンスがなさそうですね。
「そもそも押しボタン信号ではない」という「正解」に辿りつく見込みがなさそう。
もし、私が「ゆとりボタン」を作って街に設置する係の人間だったとして、
どうすれば、あの人に、そのボタンの本来の意味をわかってもらえるのか?
どうしても、わかってもらえる気がしません。
どうしたって、押しボタン信号と思い込む人間が一定数は存在するものだ、
とでも、了解しておくしかないのでしょうか?
ばら撒かれた砂粒のたとえ 1
ばら撒かれた砂粒のたとえ 2
どう考えればいいのでしょう?
誰にだって間違いはありますよね。
漢字の読み方を間違えて覚えてて、ずっと気付かない、とか。
私は昔「掲載(けいさい)」を「とうさい」と発音していたことがあります。
知り合いは「ポテンシャル」を「ポテルシャン」と言っていました。
> 私「そのボタン押さないと、青にならないんですか?」
> 彼「ええ……」
このやりとりのとき、
彼の視線が、頭上にある自動車の信号機へ向いたように見えたのです。
そして、自動車の信号機が黄色に変わるのを確認して、再び前を向いた、ように見えたのです。
「自分がボタンを押したから、変化が起きた」
と思っているのでしょうか。
「押さなくても青になるかどうか」を確かめるために、押さずに待っていたことは、おそらくないのでしょう。
ボタンを押す → 信号が青になる → 横断する、という手続きは今日も変わらずに遂行することができました。
彼の中では、彼の行動に、何らの問題も起きていない。
> そのボタンの本来の意味を教えて差し上げることが目的ではなかったので、
すごく不安になります。
本当のことを知らないのは私の方なのかもしれません。
私は、大きく書かれた説明書きに、目をくらまされている。
書かれている通りに受け取るなんて、世間知らず。
そのボタンの本当の意味を知っているのは、実は彼だった。
そうなのですか?
そうなのですか?
そうなのですか?
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