さよならトーイ
【システム:複数ENDに分岐】 【目安総プレイ時間:45分】 【制作:wishtale様】
早夜子は最近何もかもつまらない。
友達と遊んでいても、テレビを見ていても、マンガを読んでいても。
──でも周りの人は笑っているのだから、これはきっと私がおかしいんだ
希薄な現実感。
おどおどした母親。仕事にかまけて交流のない父親。
そんなある日、身の回りで不可解な事件が頻発し、無意識に封じていた記憶が目覚め始める。
[このゲームが公開されているページ]
https://www.vector.co.jp/soft/win95/game/se414319.html
■ プレイガイド
一周約15分程度。 その後は既読スキップで快適に周回可能。 短編とは言え、しらみ潰しをするにはキツイ規模ですが、エンディングリストにヒントが書かれているので察しながら狙っていけます。
フルコンプすると追加シナリオが解放されます。内容理解のため是非読んでおきたい。 果たして「ぬいぐるみ」とは「何」の事なのか……?
■ 感想(※微ネタバレ)
これは明らかに「親が……」という感じですが、話はそう単純でもないかな。 怒りの気持ちはある。しかし親に悪意があったとも言い難い。 今後は良い関係を築いていけるだろうかという気持ちもある。 そういう相容れない複数の思いが擬人化された各キャラに表れている……とは深読みしすぎかな?
■ 1つの解釈と考察
以下、さらにネタバレ度の高い内容です。 ご覧になる場合は、プレイ後を推奨します。
「謎」の残る内容ではありますが、全編拝読した上での印象として、 子供を「欲しがる」親の狂気というものを感じました。
追加シナリオに描かれている範囲で見る限り、主人公の親は「人間としての主人公」を愛しているのではなく、 「自分が欲しいと思っていた、自分の思い通りになるような」 (ぬいぐるみとしての)「娘」を愛しているのではないのかなという印象を受けます。 父親には冷静さが見られるものの、母親のそれは完全に「狂気」として描かれているように見えます。
しかし本編での母親は主人公に対して、距離をはかりかねているような、弱気な態度を見せている。 この時点では「狂気」の憑き物は落ちていて、娘=人間に対する罪悪感が前面に出ているのでしょうか。 同様に本編中の父親が仕事にかまけて家族との、特に娘(主人公)との交流から遠ざかっているのも、 もしかすると母親と同様の、何らかの「負い目」を感じてのことなのかなとも思います。
子供は親の言動がいくら「間違って」いても「愛情」と受け取るしかない。 まさに物言わぬ「人形」や「ぬいぐるみ」のように。
結末の主人公の選択(思考回路)には、 親から受けた仕打ちを「愛情として感謝せねばならぬ」というドグマがあるように見えます。 そのドグマの下では、親に対して感じる怒りは「禁じられた怒り」です。 怒りそのものの行き場のなさ、あるいは「禁止」の「罰則」として、 それが自分への攻撃という形に変形し、 「人形」たちに自分を攻撃させていたのではないかとも思えます。
あるいはそういう、「親に感謝せねばならぬ」という、受身になる以外にどうしようもない無力さが、 「人形」や「ぬいぐるみ」の物言わぬ・身動きできぬ有様と符号しているようにも思います。
このストーリーから、一つの問いかけを感じました。
もし「人形」や「ぬいぐるみ」が意志を持ったとした何を言うだろうか?
言葉を変えればこうです。
もしも親から理不尽な仕打ちを受けた子供が、
「社会的倫理観」によって口に猿ぐつわを噛まされることなく、
「自分の意志を持つ」としたら何を言うだろうか?
「大事にしてくれてありがとう」
本編では「彼ら」は、ある種の「合意」としてそこに至りました。 それは一つの美談ではあり、また、「彼ら」にとっての「決着の付け方」でもあったのでしょう。
それは「ぬいぐるみ=子供」の側から発せられる赦しの言葉ではあり、 そこだけを切り取って、ただの「泣ける話」というエンタメで終わるなら、それはそれで「円満」ではありますが、 下手をすると「立場の弱い側にだけ譲歩を要求する風潮」への燃料投下になってしまうリスクも感じないではありません。
ここで問われるのは、「赦し」を受け取った側の、生き方なのでしょう。
「私」は「ありがとう」と言われるに足る人間か?
ともかく、「赦し」は放たれた。
ならばせめて、その言葉に相応しい生き方が、どうかできますようにと願いたく思います。