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ノベルゲーム・ADVプレイ報告&紹介

8月7日の雨宿り

【システム:END回収型】 【目安総プレイ時間:3時間】 【制作:ひろもと弘 様】

雨のバス停で面識のない3人が出会う。
傘立てには誰かの忘れ物らしき傘が1本だけ。
傘を使うかどうか? 使うなら誰が?
答えのない押し問答が始まる。

[公式サイト]
http://hiromotoh.my.coocan.jp/87ame/lr-1.htm

[このゲームがダウンロードできるページ]
https://www.vector.co.jp/soft/winnt/game/se157190.html

■ プレイガイド

1周は5〜10分程度。 END数が多くコンプのし甲斐あり。 ゲーム内にはENDリストがないのですが 公式サイト によれば全17ENDとのこと。 公式サイトには攻略情報もあり。

■ ENDリスト

自力でのEND回収の確認に役立てられるように、極力ネタバレ要素を排したENDリストを作成しました(当方の調査による)。


表の「終了直前のテキスト」を目印にすれば、どのエンドに到達したのかが確認できるかと思います。 エンド番号は公式の番号に合わせてあります (さらなる攻略を見たい場合の照合用に)。

ここには通常のプレイで自力で到達できる想定と思われるエンドのみ掲載してあります(エンド数16)。 表の右端の「ヒント」を見るにはマウスで選択して色を反転させてください。 ヒントの内容は当方の調査によります(公式の攻略情報の方がより直接的)。

END番号 終了直前のテキスト ヒント
END_01 ……涼子さん、どうしただろうなぁ みね美が去り、主人公も傘を辞退
END_02 「世の中ってそーゆうもの」だとも思う 2人とも出て行って、自分だけ傘を使う
END_03 話し合う姿勢が欠けていたんだ。 2人とも出て行って、自分も傘を使わずに出て行く
END_04 ふがいないじゃないか。 涼子が「芝居」をうって主人公が残される
END_05 誰が持っても意味がないだろう。 涼子と2人で使おうとして2人とも濡れる
END_06 負けた気がするのは何故だろう。 みね美に譲られて1人で傘を使う
END_07 後戻りはできないのだから。 2人を騙して傘を独り占め
END_08 自分の傘を持つようにしような 傘を壊す
END_09 静かになっちゃったね 話し合いルート。みね美が傘を得る。
END_10 ここには傘が無いからな〜。 話し合いルート。涼子が傘を得る。
END_11 涼子さん、どうしただろうなぁ。 涼子に傘を託してバス停を去る。
END_12 女の子二人分の重さはあるんだろうな。 主人公が傘を使わせてもらう。
END_13 私は左へ行くわ みね美HappyEnd(傘を使うのがみね美)
END_14 嘘つきじゃないってば。 涼子HappyEnd(傘を使うのが涼子)
END_15 恨みごとが出てるじゃないか。 お金で解決。
END_16 ずぶ濡れになる権利をわざわざ勝ち取ったんだ。 話し合いルート。二人に言い負かされる。

■ 感想と考察

「傘の譲り合い/奪い合い」と言うと些細な問題のようですが、 だからこそ「正解」が見えなくなり、 選択の幅が広がって微妙な心理的駆け引きが。

人は何を求め何を願うのか?

数々のENDを見ていると、何が「正しい」のか分からなくなってきます。

その中で、私が特に印象に残ったENDは……

(以下、ネタバレ感想・考察)
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色々なエンドがある中で私が特に印象に残ったのは、 話し合いの結果、みね美か涼子のどちらかが傘を持ってバス停を出て行くエンド(END_09、END_10)です。

それまでずっとストーリーが紛糾していたのに、バス停の中が急に静かになる。 バス停には「主人公+みね美」もしくは「主人公+涼子」が残されるが、話題がなくなってしまう。 なぜかと言えば傘が無くなったからです。

この点、涼子が傘を持って出て行って主人公とみね美の2人になるエンドの方では明確なセリフがありますね。

「…話すこと、なくなっちゃったね」
「あぁ…ここには傘が無いからな〜」

作品の中心は「傘の使い道」であり、その傘がなくなってしまえば「話すこと」もなくなる。 正確に言えば「傘の使い道を巡って、3人が心理的な駆け引きの応酬をすること」です。 そのためにルートによっては傘を壊すことさえあった。 しかし傘がなくなってしまえば残されたのは「退屈」です。

古今東西の世界中のどの宗教や神話でもそれぞれに 「天国・地獄」「善・悪」の概念が語られていますが、 概して「天国」や「善」の概念はバリエーションに乏しいの対し、 「地獄」や「悪」については実に想像力豊かに 複雑な世界観や登場人物(悪魔など)が語られていることが多い。

つまり「悪」の方が「面白い」わけです。 あるいは我々人類が「面白い」と感じるのは「悪」であり、 「悪」とは「面白さ」の別名と言えるのかもしれない。 「悪」にこそ我々は想像力をかきたてられ、尽きせぬ興味を喚起される。

思えば世の中のほとんどの「物語」は「平和が脅かされる」ことで始まり、「平和を取り戻す」ことで終了する。 「悪」こそが「コンテンツ」になる。「善」は物語を導く道標にはなるが、その実現は皮肉にも「世界の終わり」を意味する。

本作では「傘」を巡って登場人物がさまざまな議論を繰り広げます。
「やさしさ」とは何か?
「強さ」とは何か?
「他人に利益を譲るべきなのか?」
「自分の欲望を追求するべきなのか?」

複数の分岐の過程で価値観は如何様にも反転し、答えは出ない。 あらゆることは正当化が可能であり、それは裏返せば、あらゆることが何らかの意味で間違いであることにもなる。 「争い」だけが「争い」ではなく、「譲り合い」も「争い」の一種。

結局「傘」は1本しかなく、全員が濡れずに済む完璧なハッピーエンドは存在しない。 どのルートを読んでも、どこか心に引っかかるものが残り「何かいい方法は無いのか?」と考えたくなる。周回を繰り返してしまう。

しかしそれも「傘」があっての話。 「傘」が無くなってしまえば「争い」は消え、「平和」になり、「物語」は終わる。

「…話すこと、なくなっちゃったね」
「あぁ…ここには傘が無いからな〜」

幾度となく反転して読む者の心をザワつかせていた「価値観」も、 「話すこと」が無くなってしまえばどこかへ消え失せてしまう。

ここで「退屈」を感じた我々は、きっとまた別のゲームをダウンロードする。 血沸き肉踊るストーリーを求めて、コンテンツの量産と消費を繰り返す。 我々の心は「平和」という退屈に耐えることができない。

それを『「平和」という退屈に耐える "強さ" がない』などと称して 価値観の地平に引きずり下ろせば、またぞろ「コンテンツ」の開幕です。

作中の「1本だけの傘」「雨のバス停」「見知らぬ3人」という舞台設定が、 もっと深刻なものだったとしたらどうなっていたか? たとえば深海に沈んだ潜水艦の中で酸素ボンベが1人分しかない、みたいな。

その場合はもっと例えば「生きるとは何か?」「助け合うとは何か?」などのような、 のっぴきならない差し迫ったテーマ性が前面に押し出されることになったと思います。

しかし本作は「たかが傘」です。 濡れるのは嫌ですが、別に死ぬわけでもなく、そのときだけのこと。

だから、そこで行われる「奪い合う」「譲り合う」という行為自体にはさほどの意味がない。 その行為に意味を与えているのは、登場人物の「心理」です。あるいは読者の、と言ってもいいかもしれない。 「たかが傘」を巡って、さまざまな「価値観」の応酬が繰り広げられる。 その「価値観」を作り出しているのは、ほかならぬ人間の「頭」です。 人間の「頭」が、「傘」というそれ自体は意味のないものを媒介にして「コンテンツ」を作り出す。 そして「傘」が無くなれば「ネタ」がなくなり、我々は退屈する。

作者のサイトで「これはすごく地味なお話」「派手にしようと思えばいくらでも出来た」 と語られていたのですが、「地味」であることこそ本作を本作たらしめている根幹なような気が私はします。

たとえて言うならば燃料と炎。 燃料の「燃えやすさ」ではなく、炎そのもの。 設定が「地味」だからこそ、設定自体の深刻さではなく、 「地味にもかかわらず、それでもくすぶろうとする "人間の業の深さ"」が浮き彫りになっているような気がします。

しかし「訴えたいテーマなんて全く無しで「傘を持っている女の子が描きたい~」と、それだけの想いで作り始めました」 とも語られていますので、元々は特にメッセージ性のようなものはないのかもしれず、 だとすれば、それにもかかわらず、このようにアレコレと深読みしてしまう私の方こそ業が深いのかもしれないとも思いつつ……。

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