「いつもそうだ……どいつもこいつも。女だからって!」
包帯の巻かれた手で、使い古したグローブを胸に抱く。
「私は努力したんだ。兄以上に。
実力も身につけた。兄以上に!
だが、兄がやれば価値のあることも私がやると、たかが女のやることだとバカにするのだろう?
それでも私は続けてきたんだ。兄がすぐに飽きて投げ出したものを、今まで続けてきたんだ。
その野球さえできなくなったら、私には何もない……。
だが、マインドルなら! マインドルなら!」
実力も身につけた。兄以上に!
だが、兄がやれば価値のあることも私がやると、たかが女のやることだとバカにするのだろう?
それでも私は続けてきたんだ。兄がすぐに飽きて投げ出したものを、今まで続けてきたんだ。
その野球さえできなくなったら、私には何もない……。
だが、マインドルなら! マインドルなら!」
副会長は傍らのテーブルの一つを強引に持ってきて、盤面をセットした。
iPonと思われる携帯端末を横に置き、動画の撮影を開始した。
いつの間にか周囲には見物の人垣ができて、俺と副会長を取り囲んでいる。
「さぁ、悪いが一勝負付き合ってもらうぞ」
テーブルと盤面を挟んで、副会長の鋭い視線が俺を見据える。
周囲を人垣の輪に取り囲まれた閉塞感の中、緊張感が高まる。嫌な緊張感だ。
朝の純ヶ崎のときとは違う。この嫌な感覚は何だ?
俺は勝てばいいのだろうか? 負けるべきなのだろうか?
勝っても負けても不快な結果しか待っていないようにしか思えない。
こんな勝負をすること自体がおかしなことなんだ。
「あんた、何がしたいんだよ? 目的を見失ってるんじゃないのか?」
「おまえに何がわかる!」
ああ、嫌な感じだ。すごく嫌な感じだ。
しかも何で、よりによって野球なんだ。
何でこの世に野球なんてものがあるんだ。何でこの世にマインドルなんてものがあるんだ。
頭に血が上る。
「そうだな。俺はあんたじゃないから、あんたのことはわからない。だが不幸自慢なら受けて立つぞ!」
「おまえにはチャンスがあったはずだ。私にはそれさえない!」
「同情して欲しいだけならいくらでもしてやる。それがあんたの望みならな」
「おまえも私を見下すのか。ならばおまえがどの程度のものなのか、この私に見せてみろ!
さぁ来い! おまえが先手だ。おまえの全ての選択を否定してやる!」
さぁ来い! おまえが先手だ。おまえの全ての選択を否定してやる!」