「…………」
なんだなんだ?
一行はすでに通路の向こうへ行ってしまったというのに、陰之内は俺の顔を覗き込む。
身長は俺より少し低いぐらいだろうか。
華奢な体格で、強そうにも見えない。しかし露骨に顔を覗き込まれて圧迫感を覚え、俺は思わず後ずさる。
「な、なんだよ?」
「キミ、どこかで見たことあるなぁ……。もしかしてテレビに出てたことある?」
「それはこっちのセリフだ」
何を言い出すんだこいつは。芸能人専用のギャグか?
俺がテレビに出たことなんて、わずかに可能性があるとすれば一度だけだ。
野球部にいたときに、一度だけ甲子園のマウンドで投げたことがある。もしかするとそのときテレビに映ったかもしれない。
「あ、思い出した。以前、甲子園の試合で投げてた人に似てるんだ」
「……よく覚えてるな、そんなこと」
こいつ、もしかして野球マニアなのか?
「あれれ? ひょっとしてご本人? これは失敬。
だけど甲子園で投げてたようなスゴイ人がこんな無名校にいる理由と言えば……推して知るべし、と言ったところかな?」
だけど甲子園で投げてたようなスゴイ人がこんな無名校にいる理由と言えば……推して知るべし、と言ったところかな?」
「おまえ、友達いないだろ?」
こいつがどんな人間なのかは知らないが、初対面の俺にわざわざ嫌味を言う理由はないはずだ。
単に口のきき方を知らない天然野郎か?
あるいはテレビに出てる人間はカメラの前では愛想がいいが普段は嫌なやつだったりするという、その典型例だろうか?
「いやぁ、仕事柄、学校にはあまり行けなくてね。同年代の友達があんまりいないんだよ」
「だろうな」
「えーっと、折原くん、だよね?」
「よくご存知で」
「折原くん、僕と友達になってくれないかな?」
「友達ってのは、なりましょうって言ってなるもんじゃないだろ。機会があれば、そのうちにな」
「残念。フラれちゃったな。人生とは思い通りにいかないものだね」
「まったくだ」
こいつはいつまで俺に絡んでるつもりなんだ?
そう思っていたら不意に陰之内の手が伸び、俺の右肩を軽く叩いた。
「思い通りにいかないということは……
自分の意志を持つことには意味がない、のかもしれないね」
自分の意志を持つことには意味がない、のかもしれないね」