しかし、その足は地面に張り付いたまま動かない。
「くっ……」
数メートル先の扉を見つめる。
最初に見たときと変わらず、大きく開放された状態でビルの内部を覗かせている。
人影は見えない。無人だ。
が、通れる気が全くしない。
静かに口を開けた四角い穴から、禍々しいオーラが放たれているのが見えるかのようだ。
これはまさしく……まさしく、スマーティングシステムの為せる技だ。
「なんなのよ、一体どうなってるのよ……!」
「スマーティングシステムだ」
「はぃ?!」
「これがスマーティングシステムのやり口なんだ」
「ど、どういうこと……?」
そうか。後藤は知らないようだな。
後藤はずっと仮面マインドラーとして、スマーティングシステムを使い続けてきたからな。
さっき仮面を捨てたばかりの後藤にとっては、これが初めてなのだ。
「意志を持たぬ者が、意志を持つ者を妨害する。それがスマーティングシステムのやり方なんだ」
俺はビルの扉を指差す。
「もちろんあのユーザーたちの誰一人として、俺たちを妨害しようなどと思っているわけじゃない。
ただゴーグルのサジェストに従っているだけだ。
だがその結果、全体として、見事に俺たちを妨害することに成功するようになっている。
あそこにいる誰にも自分の意志はない。そうして、結果的に、意志を持つ俺たちが排除されるんだ。
そして、意志のない者だけが存在する世界が出来上がる」
ただゴーグルのサジェストに従っているだけだ。
だがその結果、全体として、見事に俺たちを妨害することに成功するようになっている。
あそこにいる誰にも自分の意志はない。そうして、結果的に、意志を持つ俺たちが排除されるんだ。
そして、意志のない者だけが存在する世界が出来上がる」
「じゃあ、ゴーグルをつけてあいつらのお仲間にならないとあそこを通れないってこと?
私そんなの嫌だからね。ていうかさっき壊しちゃったけど、仮に今ここにゴーグルがあったとしても、絶対につけない。
あんなもの、金輪際つけるもんですか!
無事にあそこを通れたとしても、あいつらのお仲間になっちゃったら意味ないじゃない!」
私そんなの嫌だからね。ていうかさっき壊しちゃったけど、仮に今ここにゴーグルがあったとしても、絶対につけない。
あんなもの、金輪際つけるもんですか!
無事にあそこを通れたとしても、あいつらのお仲間になっちゃったら意味ないじゃない!」
「そうだよな。わかってるさ」
「だけど、一体どうすれば……」
後藤は扉を見つめて歯噛みしている。
「大丈夫だ。ゴーグルなんかなくたって、あそこを通る方法はある」
「何かいい案でもあるの?」
「ああ、あるさ。とっておきの、最強の方法がな」
「もったいぶってないで早く言いなさいよ」
「意志を強く持つんだ」
「意志を……?」
「そうだ。意志があるなら、本当は、意志を持たないやつらなんかが邪魔できるはずがないんだ。
さっきから俺たちがあそこを通るのを邪魔してるやつらの誰一人として、 実際には俺たちにあそこを通って欲しくないと思っているやつはいない。誰も何も考えてないんだ。
だが、あそこを通りたいのは誰だ? 俺とおまえだ。
本気で通りたいと思っている人間を、何も思ってないやつが邪魔できるはずがないだろう?」
さっきから俺たちがあそこを通るのを邪魔してるやつらの誰一人として、 実際には俺たちにあそこを通って欲しくないと思っているやつはいない。誰も何も考えてないんだ。
だが、あそこを通りたいのは誰だ? 俺とおまえだ。
本気で通りたいと思っている人間を、何も思ってないやつが邪魔できるはずがないだろう?」
「何それ? 根性論?」
「そうかもな」
「…………」
「不満か?」
「ふん。上等じゃないの。この私の意志の強さをナメてもらっちゃあ困るわね」