俺は軽く体をひねり、最小限の動きでかわす。
先輩は突進した勢いのまま、前方へよろめき、転びそうになる。
すぐに身を起こし、俺に向かって再び構えをとる。
闘志は衰えていない。だが俺はその両肩が上下に揺れているのを見逃さない。たったこれだけの動きで息が切れているのだ。
「意志だけではどうにもならないことがある。
そのとき、あなたはどうしますか?
それとも、スマーティングシステムを使って俺の動きを予測してみますか?」
そのとき、あなたはどうしますか?
それとも、スマーティングシステムを使って俺の動きを予測してみますか?」
「私は……私は……!」
俺と先輩は互いに身構えたまま睨み合う。
間合いが緊張を孕み、空気が震える。
「俺は、あなたを咎めるためにここへ来たんです。
だけど、今のあなたに、咎めるだけの意味はあるでしょうか?
あなたは本当にあなたの意志で動いていますか? あなたは本当に俺の尊敬する皆月多恵子先輩ですか?」
だけど、今のあなたに、咎めるだけの意味はあるでしょうか?
あなたは本当にあなたの意志で動いていますか? あなたは本当に俺の尊敬する皆月多恵子先輩ですか?」
「私は全てを私の意志で選んでここにいる。
間違っていることも承知の上で、私は私の行動を選んだ」
間違っていることも承知の上で、私は私の行動を選んだ」
「知ってます。
俺を誰だと思ってるんですか? あなたを宇宙から連れ帰った人間ですよ?
あなたのことならこの全宇宙であなた自身の次によく知っています」
俺を誰だと思ってるんですか? あなたを宇宙から連れ帰った人間ですよ?
あなたのことならこの全宇宙であなた自身の次によく知っています」
「折原くん、あなたの目的は何? わからないのはあなたの方。
あなたの意志はどこにあるの?」
あなたの意志はどこにあるの?」
「俺は先輩に会いに来たんです!」
「私はここにいるよ。私は私の意志でここにいるよ」
「スマーティングシステムは間違っています。
いくら "正解" を出そうとも、間違っています。
なぜなら人間を否定しているからです。
俺は人間であることを選びました。人間としてこの地上で生きることを選びました。
だから俺はスマーティングシステムには "否" と言うんです。
俺がもしもスマーティングシステムに "是" と言うとしたら、それは俺が死ぬときです。
俺は死なないことを選んだ。
だから俺は俺が俺である限りスマーティングシステムには何度だって "否" と言うんです」
いくら "正解" を出そうとも、間違っています。
なぜなら人間を否定しているからです。
俺は人間であることを選びました。人間としてこの地上で生きることを選びました。
だから俺はスマーティングシステムには "否" と言うんです。
俺がもしもスマーティングシステムに "是" と言うとしたら、それは俺が死ぬときです。
俺は死なないことを選んだ。
だから俺は俺が俺である限りスマーティングシステムには何度だって "否" と言うんです」
「この世界には間違いがたくさんある。
私も世界の一部。この地球上で生きてる人間の一人。
だったら他の人たちを差し置いて私一人だけが "正しい" なんてあり得ない。
この世界に間違いが存在する限り、私も一緒に間違う。一緒に間違いながら生きていく。
それが私の選択。
この地球に生きる一人の人間として、私は私の意志でそれを選んだ」
私も世界の一部。この地球上で生きてる人間の一人。
だったら他の人たちを差し置いて私一人だけが "正しい" なんてあり得ない。
この世界に間違いが存在する限り、私も一緒に間違う。一緒に間違いながら生きていく。
それが私の選択。
この地球に生きる一人の人間として、私は私の意志でそれを選んだ」
「知ってます。言ったでしょう? 俺はあなたを知っています。この宇宙で誰よりも、あなたの次にあなたのことをよく知っています」
「ならば……受け取ってもらう!」
先輩の足が地面を蹴った。間合いが圧縮される。
バンソコとともに突き出されるその腕を俺は紙一重でかわす。
一撃では終わらない。何度も繰り返し突き出される先輩の手を、俺は何度でもかわす。何度でもかわす!
「無駄と言ったはず。あなたは俺に触れることができない!」
かわす。俺には見える。この人の動きが手に取るように見える。
その気になればわざとよけずにいることもできるのだろうか?
だが、見えてしまうのだ。
よける道が俺には見えてしまうのだ。
その俺が、それでもわざとよけずにいることにどのような意味がありえるものだろう?
それとも、だからこそ、わざとよけずにいるべきだろうか? 俺の意志で?
だがこうしている間にも先輩の動きはどんどん鈍くなっていく。
やがて先輩は立ち止まってしまった。
構えこそ解かずにいるが、誰の目にも明らかなほど肩を大きく上下させている。その前髪からは汗がしたたる。
一方の俺は息一つ乱れていない。基礎体力に差がありすぎる。
そうだろう。トレーニングをしていなかったとは言え、俺は元・運動選手。
この会場まで体力を削って走ってきた俺にさえ、この人は追いつけない。わかっていたこと。
だが俺は見たいのだ。この人の意志を見たいのだ!
「さぁ、どうしますか? あなたは何を選ぶんですか?」