「意志の力ではどうにもならないことがある。確かにあなたの言う通り」
仮面の奥にあるはずの先輩がどんな目をしているのか? 俺には見えない。
今口にしているセリフもあるいはスマーティングシステムのサジェストなのだろうか?
「あなたはスマーティングシステムには勝てない。
たとえ今日は勝てても、来年はもう無理。再来年はもっと無理。
人間の力には限界がある。
だから人はスマーティングシステムを求めた。
間違うことを恐れた。
"選んでしまうこと" を恐れた。
それでも人には意志がある。
"選んで" しまっている。生きている限り。
それは否定できない事実。
だから、それを否定することは間違ってる。
間違わないでいるために、さらに間違ってしまっている。
だったらどうすればいいんだろう?
自殺できるほど強い人ばかりじゃない。
だったらどうすればいいんだろう?
できることなんて何もない。
それでも人には意志がある。
無力な意志。
できるのは目を逸らすことだけ。
逃げて逃げて……目を逸らして、逸らして……。
間違わないために、さらに間違って……。
もう誰も顔からゴーグルを外せない。
今更間違いに向き合うことなどできない。
積み重ねた嘘が重すぎる。
それでも人には意志がある。
地球に人間がいる。
何もできない人間がいる。
だったらどうすればいいんだろう?」
たとえ今日は勝てても、来年はもう無理。再来年はもっと無理。
人間の力には限界がある。
だから人はスマーティングシステムを求めた。
間違うことを恐れた。
"選んでしまうこと" を恐れた。
それでも人には意志がある。
"選んで" しまっている。生きている限り。
それは否定できない事実。
だから、それを否定することは間違ってる。
間違わないでいるために、さらに間違ってしまっている。
だったらどうすればいいんだろう?
自殺できるほど強い人ばかりじゃない。
だったらどうすればいいんだろう?
できることなんて何もない。
それでも人には意志がある。
無力な意志。
できるのは目を逸らすことだけ。
逃げて逃げて……目を逸らして、逸らして……。
間違わないために、さらに間違って……。
もう誰も顔からゴーグルを外せない。
今更間違いに向き合うことなどできない。
積み重ねた嘘が重すぎる。
それでも人には意志がある。
地球に人間がいる。
何もできない人間がいる。
だったらどうすればいいんだろう?」
見えない。先輩の顔が見えない。
この声は誰の声だ?
俺は今、"何" の声を聞いている?
「もうすぐ試合が始まる。行かなきゃ」
仮面をつけた状態ながら、視線が逸れたように見えた。
仮面の裏側のモニターに試合の開始時間が近い旨のサジェストでも表示されたのだろう。
そして俺に背を向ける。
「会場で会いましょう。あなたに来る意志があれば、だけど……」
背中が遠ざかり、建物の陰に消えた。
俺を呼んでいる……?
呼んでいるのだ誰だ? 先輩が? それともスマーティングシステムが? それとも、もっと別の何か?
俺は先輩に会いにきたんだ。
俺の意志で。
意志は無力だ。
人間は無力だ。
ただ "思う" ことしかできない。
それでも、いや、だからこそ、俺は人間に会いたいと思ったんだ。あなたに会いたいと思ったんだ。
人間が人間を否定して姿を消していくこの世界で、あなたに会いたいと思ったんだ。
先輩、あなたは、まだ、本当にそこにいますか?
俺が今から試合に向かえば、そこで俺は、あなたに会うことができるのですか?