「折原亮介」
ゆっくりと階段を降り、地面を数歩進んだところで、後ろから声がかかった。
振り向くと、二葉が立っていた。
「キング・オブ・マインドラーズに行くのか?」
まるで見送りに来てくれたみたいな恰好だ。
「ああ」
短く答える。
行くかどうかと問われれば、質問の答えはイエスだ。
それが俺の意志だと言えるのかどうか、自信があるわけではないけれど。
「スマーティングシステムは持っているか?」
「いや」
「そうか」
二葉は俺がスマーティングシステムのユーザーではないことぐらいは知っているはずだ。
「なんでそんなこと訊くんだ?」
「なぜだろうな?
スマーティングシステムがあればわかるのかもしれないな」
スマーティングシステムがあればわかるのかもしれないな」
なるほど。
スマーティングシステムに問い合わせれば、何か気の利いた、もっともらしい、反論不可能な理由が表示されるのだろう。
ではもしもスマーティングシステムがあったら、俺が試合に出るのと出ないのとどっちがいいと表示されるのだろうな?
だが出ると決めたのは俺だ。
スマーティングシステムが出ろと言うか出るなと言うか、そんなことは知ったことではない。
「一つ言っておきたい。
スマーティングシステムがなければ試合には勝てないぞ」
スマーティングシステムがなければ試合には勝てないぞ」
その話か。
「そりゃあ……大会そのものがスマーティングシステムの宣伝なのは知ってるし、
最終的には闇夜の仮面マインドラーが勝つって筋書きなんだろうけど、だけど今日は予選だ」
「そうだな」
「先輩も後藤も俺とは別のブロックだから、当たるとしても本戦に進んでからだ」
「そうだな」
「いくらスマーティングシステムが普及してると言っても、試合そのものはマインドルなんだ。
いくらなんでも、まさか試合中に堂々とスマーティングシステムを使うやつなんていないだろう?」
いくらなんでも、まさか試合中に堂々とスマーティングシステムを使うやつなんていないだろう?」
「そうだな。私もそう思う。だが……」
二葉は少し間を置いて、言葉を選びながら話す。
「私の感覚はいつも世間の感覚とはズレている。
その私と同じ考えだということは、おまえの感覚も世間とはズレているということだ」
その私と同じ考えだということは、おまえの感覚も世間とはズレているということだ」
いくらなんでも。
まさか。
そんなことはないだろう。
だが、どうしてそう言える?
世間の感覚とのズレ。つまり "いくらなんても、まさか" だからだ。そうとしか言えないということに俺は気付いた。
二葉の示した可能性を否定する言葉として、俺はそのぐらいしか言えない。
"感覚" とはそういうことであり、そしてそこにズレが生じたとき、論理的な言葉は力を失ってしまうのだった。
そしてすでにこの世の中は俺の感覚とはズレまくっているのだった。あるいはズレているのは俺の方というべきか。