浮遊感が全身を包んだ。
血液が頭部へ逆流していくのがわかった。エレベーターで下へ降りるときの感覚を何倍かに増幅するとこういう感じか!
もちろん足の下に床はない。
が、狙い通りの位置に茂みがある。
両足で危なげなく着地。と言っても体を支えて立っていられるようなスペースはない。
靴底の裏に湿った土の塊の感触を感じつつ、落下の勢いのまま両膝を曲げる。
しゃがんだような姿勢で足元の草を両手でつかみ、同時に視線を下へ向けて次の目標地点を見つける。
あそこだ。
一瞬の判断。
足の裏を茂みから離して両足を伸ばし、つかんだ草にぶら下がる。少し下に見出した茂みへと体を振って草から手を離す。
二度目の浮遊感。
足の裏で土の塊を受け止めて落下の勢いをコントロールしつつ、足元の草を両手でつかんで次の目標地点へと再びジャンプ。
いいぞ。いける。
ただ落ちているわけではない。重力を利用して適度に速度を保ちつつ、思い通りに降りることができている。
俺の意志の通りに!
そうだ。これは間違いなく俺の意志だ。
なぜならシステムの予想を外しているからだ。
人間は崖を降りられないとでも思っているんだろう?
人間は自殺行為をできないとでも思っているんだろう?
甘いな。
人間はその気になればなんだってできるんだ。
意志の力で誰も予想できないようなことをやってのける。それが人間だ!