「"崖" ってのは、つまり、"通れない" ってことだろ?
それとも、まさか、飛び降りろとでも言うのか?!」
それとも、まさか、飛び降りろとでも言うのか?!」
「飛び降りることはできないのか?」
「自殺行為だ!」
「自殺、か……」
「あ……」
自殺。
自分で口にした言葉が広々とした空間にこだまして耳に届いた。
妙なものだな。"自殺行為" というのは "しない方がいいこと" の代名詞だ。
だが、死ぬのは俺の望むところだったはずだろう?
ここに来てそれを理由に二葉のサジェストを却下するなど、俺は一体どの口でそのセリフを言っているのだろうな。
もちろん、結局死ぬことができずに、こうしておめおめと生き長らえてここにいるというわけなのだけど。
「折原亮介」
目を開けた二葉が真っ直ぐに俺を見据える。
「おまえは自殺しようとしたことはあるか?」
ある。
だが俺は答えられない。
自殺しようとしたことがあって、結局ここにこうしているということは自殺できなかったという挫折の結果に他ならないからだ。
と、なると、実のところ本気で死ぬつもりだったのかどうかもわからない。少なくとも、人に話せば嘘っぽい話になりかねない。
そうした意味で、俺は堂々と "ある" と即答することをためらってしまった。
「私はない」
ためらっていると二葉に先を越された。
「ないんだ。私は。自分の意志で死のうと思ったことはないんだ。
なぜなら私には自分の意志がないからだ。自分の意志がない私は、自殺をすることができない。
だが、他人が自殺をしようとしている現場に立ち会ったことならある。
詳しいことは別の機会に話そう。
いずれにせよ、あくまでも他人のことだ。他人の心を読むことはできない。
だからこれはあくまでも私の推測に過ぎないのだが……。
自殺というものは、強い意志を必要とするものなのだな。
よほど強力な意志がなければ、とてもじゃないが自殺を実行することはできないだろう。
そして、死ぬということは、この世にいる全ての人間との関係を絶つということだ。
そこには誰もいない。すなわち誰からの指示もない。ただ純粋に自分自身があるのみだ。
自分の肉体さえもなくなる。すなわち肉体的な欲求を行動の指針とすることもできない。ただ純粋に自分自身があるのみだ。
しばしば、自殺は逃避であるなどと形容されるが、私の見たところ、それは違う。真逆だ。
自殺は自己と向き合うことだ。究極的な形で自己と向き合うこと。それが自殺だ。
だからたとえば私のような、自分の意志が弱い人間には到底不可能なんだ。
こういうことを言うと不快に思う人間もいるかもしれないのだが、私は自殺をする人間を尊敬している。
私にはない強い意志を感じるからだ。
私は他人が何を考えているのかわからない。
それでいて自分の意志もない。
だからいつも不安で、人の顔色をうかがってばかりだ。
人からは私は傍若無人に見えるようだが、それは私は、どう振る舞えばいいのかわからないから、
失敗を重ねた挙句、結果的にそう見えているだけだ。
私は元来、人からの指示がなければ行動できない人間なんだ。
だから私は、自殺をするほど強い意志の持ち主には憧れを禁じ得ない。
人の顔色をうかがってばかりの私には到底たどり着けない境地だ」
なぜなら私には自分の意志がないからだ。自分の意志がない私は、自殺をすることができない。
だが、他人が自殺をしようとしている現場に立ち会ったことならある。
詳しいことは別の機会に話そう。
いずれにせよ、あくまでも他人のことだ。他人の心を読むことはできない。
だからこれはあくまでも私の推測に過ぎないのだが……。
自殺というものは、強い意志を必要とするものなのだな。
よほど強力な意志がなければ、とてもじゃないが自殺を実行することはできないだろう。
そして、死ぬということは、この世にいる全ての人間との関係を絶つということだ。
そこには誰もいない。すなわち誰からの指示もない。ただ純粋に自分自身があるのみだ。
自分の肉体さえもなくなる。すなわち肉体的な欲求を行動の指針とすることもできない。ただ純粋に自分自身があるのみだ。
しばしば、自殺は逃避であるなどと形容されるが、私の見たところ、それは違う。真逆だ。
自殺は自己と向き合うことだ。究極的な形で自己と向き合うこと。それが自殺だ。
だからたとえば私のような、自分の意志が弱い人間には到底不可能なんだ。
こういうことを言うと不快に思う人間もいるかもしれないのだが、私は自殺をする人間を尊敬している。
私にはない強い意志を感じるからだ。
私は他人が何を考えているのかわからない。
それでいて自分の意志もない。
だからいつも不安で、人の顔色をうかがってばかりだ。
人からは私は傍若無人に見えるようだが、それは私は、どう振る舞えばいいのかわからないから、
失敗を重ねた挙句、結果的にそう見えているだけだ。
私は元来、人からの指示がなければ行動できない人間なんだ。
だから私は、自殺をするほど強い意志の持ち主には憧れを禁じ得ない。
人の顔色をうかがってばかりの私には到底たどり着けない境地だ」
「そうだな……」
二葉の言葉が痛い。
死のうとしたつもりが死ねずに諦めてしまった俺の無力感が抉られる。
もちろん二葉に悪意はない。
自殺ということにかかり、思うところを口にしているに過ぎないだろう。