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-Mind Logic Linkage- 学園棋神伝マインドル

「差別も争いも不平等もない、真に平和な歴史が始まろうとしているんだよ」
「そうじゃない。そういうことじゃないんだ。
高い地位につくとか、不正のない競争とか、平等とか、そんなことはどうだっていい」

俺は反駁する。しかしさきほどまでより苛立ちの度合いは低い。気持ちは落ち着いている。
なぜか? 陰之内の質問に答えるうちに自分の中で考えが整理できてきたからだ。
俺はその場から立ち上がり、陰之内に対峙した。

「いや、どうだっていいとまでは言うまい。それなりに価値はあるだろう。
だけど、そんなものは二の次三の次だ。一番じゃない。
一番大事なのは自分の意志で生きることだ。

スマーティングシステムがどれほどのものか知らないが、そんなものの言いなりになって行動するなんて無意味だ。
なぜなら自分が自分じゃなくなってしまうからだ。
システムの言いなりになって、それで何を手に入れたとしても、それをしているのが "自分" じゃないなら生きている意味がない。

勘違いするなよ? 今俺が言った "自分" ってのは俺のことじゃない。
人間すべてのことだ。

人間には心がある。誰もがそれぞれに "自分" だ。
人間は肉でできたロボットじゃない。意識がある。心がある。誰もがそれぞれに "自分" で、
その "自分" が物事を見て、感じて、"自分" で考えて、"自分" で判断して、"自分" の意志を持って、"自分" で行動して、"自分" で体験するんだ。
だからこそ生きている意味がある。それをしているのが "自分" だからだ。
それを放棄するなど、自殺よりも悪い!」

冷静なつもりだったが、思いのほか熱く語ってしまった。
今のは本当に俺の本心だろうか?
若干、熱く語りすぎたところはあるかもしれない。正確な表現とは言えない部分もあるだろう。
だが、不満はない。
二葉やキリエ、そして先輩と今日まで関わる中で、俺の中に積み重なってきた思いが口から出てきた。そんな気がする。

「ふぅん」

陰之内は大きなため息をついた。
肩がわざとらしく上下するのが見えた。

「キミは相変わらずだね。
相変わらずそんなことを言ってる。

いや、キミの口から直接こんなふうにキミの考えを話してくれたのは初めてかな?
だけどキミは初めて会った頃から何の進歩もないみたいだね。
いや、むしろ悪化しているかな?

"自分で" だとか "自分が" だとか……。
自分にこだわる。心を手放せない。

我執だ。
"俺が、俺が、俺が……。"
そういうのが全ての苦しみの元だってことがまだわからないのかい?」

「苦しみの元か。確かにそうだな」

否定できない。重く受け止めざるをえない事実だ。
どんな理屈を弄しても消えることのない事実だ。

「こうして意識があること自体が苦しい。生まれてきたこと自体が間違いだった。
何度もそう思ったし、今でもそう思ってるよ。
できることならタイムマシンで時間を巻き戻して、自分がこの世に存在しないように歴史を変えたいぐらいだ。
だが現にこうして俺はこの地球上に生きて存在しているんだ。
その事実から目をそらしたいとは思わない!」

「なるほど。自己意識は確かに存在するからね。キミがそう思うのも無理のないことだ。
だけど、人間が自己意識を持つというのは進化の途上における一時的なことに過ぎないんだよ。

文明が未発達な時代においては苛酷な自然環境とのインタラクションを効率的に処理するために 自己意識というソフトウェアを脳に構築することが人類にとって有効な生存戦略だった。
地球上のどの民族も "神" やそれに類する観念を持っているだろう? 自己意識が自然環境と生々しくインタラクションしていた太古の記憶の名残りだよ。
人類に自己意識が必要だった時代も確かにあったということだ。

だが人口が増加し高度な社会を形勢するようになるにつれ、苛酷な自然環境という外部要因の脅威は希薄になった。
神は死に、人間の時代になった。
しかし、複雑化した社会の中では自己意識というソフトウェアは人間同士の争いという新たな脅威の原因となってしまった。
さらに、インタラクションの対象を失った自己意識は内部で再帰的無限ループに陥り、無益にエネルギーを消費する原因ともなる。
それこそがキミが今まさに陥っている "自分" へのこだわりだよ。いわゆる現代人の心の悩みというやつだ。
ほら、たまに新興宗教が流行るだろう? 自己意識のインタラクションの対象を埋め合わせてるってわけだ。的を射た対処法だ。
だが人類の進化の流れには逆行していると言わざるを得ないね。

有史以降の人類の進化の歴史とは、すなわち、 原初の時代に獲得した自己意識を利用して自然環境から社会環境へと生存圏を移しつつ、やがて自己意識を脱ぎ捨てていく過程だ。
ちなみになぜそれが "有史以降" かと言えば、歴史を記録してきたのはまさに自己意識だからだ。
文字の発明云々ということも言われているが、それは本質ではない。文字は自己意識の発露であり、逆ではない。

現代人にとっての歴史とは自己意識の歴史に他ならない。
自己意識そのものである現代の人類にはそれ以前のことは認識不可能だし、それ以降のことも予測不可能だ。
現代人が "歴史" として認識可能な範囲は現代人が "自己意識を持つ存在" であるという存在の形式に必然的に規程されているからね。

そして今、その "歴史" は終盤に差し掛かろうとしている。
役割を終えた自己意識を脱ぎ捨てるフェイズにようやく人類は突入しつつある。
社会は成熟を極め、道徳観念は完成した。
もはや誰もそれを "自分で" 考える必要はない。先人たちや社会の要請に合わせるだけでいい。
さらに、そうした情報を効率よく的確に処理するテクノロジーも開発された。
原始時代以降の文明の発展とは人間が自己意識に依らずに行動することを可能とするための発展であったことがわかるだろう。

そしてついにその発展はスマーティングシステムという形で結実にいたった。
人類は集合的な認識の手段を手に入れたんだ。
人類が個人に分かれていた時代は終わる。
人類は集合的な一つの種として歩み始めるんだ。
差別も争いも不平等もない、真に平和な歴史が始まろうとしているんだ」

そこで、よどみなく語っていた陰之内の言葉が止まった。
静寂が訪れた。

「……言いたいことはそれだけか?」

「僕が言いたいわけじゃない。僕はただ人類の意志を代弁しただけさ」

「相変わらずなのはおまえの方だな。
心をなくすことがいいことだとかなんとか。
仮におまえの言った歴史とやらが本当なんだとしても俺はごめんだね」

「キミの意志は関係ない。これは人類の総意だよ。
そもそも自分がこの世に生まれてきたことは自分の意志かい?
自分の意志なんてものは幻想なんだよ。

全ては大いなる流れの中にある。好むと好まざるとに関わらず時代はすでに動きつつある。誰にも止めることはできない。僕にもキミにも。
仮にキミがこの場で僕と議論して考えを変えさせることに成功したとしても無駄なことだ。別の誰かが僕の代わりをつとめるだろう。
仮に二葉教授を暗殺したとしても無駄なことだ。誰か別の人物が代わりをつとめるだろう。有馬さんも同じ。関連企業のエライ人たちも同じ。

どうしても止めるなら核ミサイルか何かで人類を全滅させる以外にない。
だがそんなことをしたとしても宇宙のどこかで惑星が発生し、生命が誕生し、同じことを繰り返すだろう。
これは人類全体の総意であり、時代の流れだ。宇宙の意志だ。
善し悪しの問題じゃあない。選択肢などない。受け入れるしかないんだよ」

「時代の流れとかじゃなく、"おまえ自身" はどう思ってるんだ、と、訊きたいところだが……
そんなふうに訊いても無駄なんだろうな」

「僕はもちろんこの流れは大歓迎だよ。
そしてこの流れに貢献する立場にいられることを誇りに思っている。
キミにとっても悪い話じゃないはずだよ?
実際、キミと僕はよく似ている。
自己意識を持て余して無用に苦しむ。
僕も昔はちょうど今のキミと同じように苦しんだものさ。
だが心配はない。その苦しみも近いうちに終わる。全ては大いなる流れの中にある。
キミにもいずれわかるだろう。たとえ今は受け入れられなくてもね」




■ 製品情報
タイトル -Mind Logic Linkage- 学園棋神伝マインドル
ジャンル 学園物ノベルゲーム & 対戦型ボードゲーム
制作 サイトA (http://www.site-a.info/)
配布形態 フリーウェア
キャラクター画像 『コミPo!』で作成。『GIMP』でいじりいじり。
年齢制限 0歳以上。胎児の人はごめんなさい!
公開日 あなたがこのゲームの存在を知った日があなたにとっての公開日なんだぜ。
対応OS Windows7で動作を確認しました。
メモリ 4G以上推奨

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