「だからって、イカサマをすることはないじゃないですか」
「一応言っておくが、勘違いしないでくれよ?
俺は別に、スポンサーから請け負ってる仕事だからっていう理由で自分の信念に反したことを仕方なく嫌々やってるってワケじゃあない。
これはショービジネスだ。人に夢を売る仕事だ。
俺はあくまでも業界人として、面白いものをより面白く見せて世の中を盛り上げていきたいだけのことよ」
俺は別に、スポンサーから請け負ってる仕事だからっていう理由で自分の信念に反したことを仕方なく嫌々やってるってワケじゃあない。
これはショービジネスだ。人に夢を売る仕事だ。
俺はあくまでも業界人として、面白いものをより面白く見せて世の中を盛り上げていきたいだけのことよ」
「いくら面白くてもイカサマじゃ意味ないじゃないですか」
「イカサマだなんて人聞きが悪いねぇ。
これは "イカサマ" じゃない。"演出" と言ってもらいたいもんだね」
これは "イカサマ" じゃない。"演出" と言ってもらいたいもんだね」
「同じことじゃないですか」
「わかってないねぇ。わかってない。これだから素人は困る。
まぁ、いわゆる "リアル志向" って考え方もあるがね、俺に言わせればそんなのは "魅せる" センスのない三流演出家の言い訳だね。
ただ淡々と試合だけ映すなんてのはサルでもできる。現実以上の現実をいかにして創り出すか? そこが業界人としての腕の見せどころよ」
まぁ、いわゆる "リアル志向" って考え方もあるがね、俺に言わせればそんなのは "魅せる" センスのない三流演出家の言い訳だね。
ただ淡々と試合だけ映すなんてのはサルでもできる。現実以上の現実をいかにして創り出すか? そこが業界人としての腕の見せどころよ」
「ようするに嘘ってことじゃないですか」
「ふふん。そこが素人の浅知恵ってやつよ。
いいか? 人間ってのはなぁ、無味乾燥な真実よりも、熱狂できるストーリーを求めてるもんなのよ。
たとえば、だ……」
いいか? 人間ってのはなぁ、無味乾燥な真実よりも、熱狂できるストーリーを求めてるもんなのよ。
たとえば、だ……」
有馬氏は食べかけの仕出し弁当をヒラヒラと揺らして俺に見せた。
割り箸の先端で肉の唐揚げを一口かじり、その断面を俺に突きつけた。他人の歯型を見せつけられ、俺は思わず眉をしかめる。
「こうしてメシを食って "うまい!" と思うだろ?
だが、これだってフィクションだ。
生きるだけなら栄養剤でも注射すりゃあいい。料理や味付けなんて無駄なだけだ。
だけどそれじゃあつまらない。"生きてる意味がない" ってやつだ。
人間の欲ってのは生きることそのものを求めてるわけじゃあない。夢を見ることを求めてる。
その証拠に、ダイエットのためだとか健康のためだとか称してカロリーのない食い物を普通の食い物よりも高い金を払って買うだろ?
どうせカロリーがないんだからそもそも食わなきゃいいだけの話なのに食うことをヤメられねぇんだ。
そうかと思えば逆に、体に悪いとわかってても甘いモンとか脂っこいモンとかを食うだろ?
なぜか? "うまい" からだよ。
味なんてのは食べるって行為の本来の目的からすれば "嘘" だ。
だが人間ってのは、その "嘘" の方こそが大好きな生き物ってワケ」
だが、これだってフィクションだ。
生きるだけなら栄養剤でも注射すりゃあいい。料理や味付けなんて無駄なだけだ。
だけどそれじゃあつまらない。"生きてる意味がない" ってやつだ。
人間の欲ってのは生きることそのものを求めてるわけじゃあない。夢を見ることを求めてる。
その証拠に、ダイエットのためだとか健康のためだとか称してカロリーのない食い物を普通の食い物よりも高い金を払って買うだろ?
どうせカロリーがないんだからそもそも食わなきゃいいだけの話なのに食うことをヤメられねぇんだ。
そうかと思えば逆に、体に悪いとわかってても甘いモンとか脂っこいモンとかを食うだろ?
なぜか? "うまい" からだよ。
味なんてのは食べるって行為の本来の目的からすれば "嘘" だ。
だが人間ってのは、その "嘘" の方こそが大好きな生き物ってワケ」
「たしかにそうですね。ですが……」
なぜだろう? なんかイライラしてきた。
こいつの調子のいい語り口が神経を逆撫でする。
「試合にそんなイカサマを使ってるってことをみんなが知ったらどう思うでしょうね?」
こいつと一緒になって調子良く盛り上がる気になどなれない。
かと言って正面から反論すると、まともに相手にしている自分の方がバカであるかのようだ。真剣味のない口調が俺を不快にする。
「こだわるねぇ。まぁ無理もないか。なんたって亮介ちゃんはスポーツマンだからな。
おっと、最近はアスリートって言うんだっけ? 男女平等だからな。そのわりにわざわざ "○○女子" とか言ってみるテスト」
おっと、最近はアスリートって言うんだっけ? 男女平等だからな。そのわりにわざわざ "○○女子" とか言ってみるテスト」
「何の話してるんです」
「すまんすまん。"イカサマ" の話だったよな。
亮介ちゃんには気に入らないだろうが、どんなスポーツだって同じことだ。
プロレスの例を出すまでもない。亮介ちゃんの愛する野球だって同じだ。
選手が戦いましたー、勝ちましたー、負けましたー、ってだけじゃ面白くもなんともない。
視聴者が求めてるのは、あくまでも、"熱狂できるストーリー" なんだよ。
"甲子園" も "プロ野球" もストーリーを演出するための装置だ。
選手たちはストーリーという舞台を演じるための駒だ。
ある者は栄光をつかみ、ある者は敗北に泣く。
そしてまたある者は、志半ばにして肩を壊し、夢破れて、姿を消していく……。
そんな悲劇もストーリーを盛り上げるには必要だろ?
人々はメディアを通してストーリーを消費し、そこに絡む数多の企業とともに経済が回っていく。
さぁ、他人の汗と涙で喉を潤そう。感動を与えてくれてありがとう!」
亮介ちゃんには気に入らないだろうが、どんなスポーツだって同じことだ。
プロレスの例を出すまでもない。亮介ちゃんの愛する野球だって同じだ。
選手が戦いましたー、勝ちましたー、負けましたー、ってだけじゃ面白くもなんともない。
視聴者が求めてるのは、あくまでも、"熱狂できるストーリー" なんだよ。
"甲子園" も "プロ野球" もストーリーを演出するための装置だ。
選手たちはストーリーという舞台を演じるための駒だ。
ある者は栄光をつかみ、ある者は敗北に泣く。
そしてまたある者は、志半ばにして肩を壊し、夢破れて、姿を消していく……。
そんな悲劇もストーリーを盛り上げるには必要だろ?
人々はメディアを通してストーリーを消費し、そこに絡む数多の企業とともに経済が回っていく。
さぁ、他人の汗と涙で喉を潤そう。感動を与えてくれてありがとう!」
「俺が肩を壊して引退することになったのも演出だったって言いたいのか?!」
しまった。大きな声を出してしまった。
2つの意味で失敗だ。
1つはこんなやつをまともに相手にしてしまったこと。
もう1つは自分の過去の挫折体験のことで冷静さを欠いてしまったこと。
みっともない。
俺は自分の中で気分が萎えていくのを感じた。
目の前では有馬氏がいっそうニヤニヤしている。
「不満そうだな。
俺は別にどっちでもいいんだぜ?
亮介ちゃんはどっちがいい?
"ヤラセ" に巻き込まれて引退させられたってのと、自分の才能が足りなかったから体を壊して引退したってのと」
俺は別にどっちでもいいんだぜ?
亮介ちゃんはどっちがいい?
"ヤラセ" に巻き込まれて引退させられたってのと、自分の才能が足りなかったから体を壊して引退したってのと」