敗北感。
その3文字が思い浮かんだ。
この感覚には覚えがある。
この敗北というのは試合で負けたときのことではない。もっと根本的なやつだ。
あれは野球部を辞めたときのことだった。
肩の痛みが治まらず、練習を休んで病院に行って、もう投手はできないと宣告された。
それほど悔しいとは思わなかったんだよな。
自分に才能がないってことは何となくわかってた。
努力はしていたつもりだが、まわりのやつに追い抜かれるばかり。
そのうちに肩が痛み始めて練習もままならなくなっていた。
多分俺はもうダメなんだろうと思っていたんだ。
だから、医者に宣告されたときも、それほどショックは感じなかった。
将来を嘱望されるような選手が不慮の事故で、ってわけじゃない。潰れるべくして潰れた。それだけ。
それに俺が辞めたからと言ってチームの戦力にはなんの影響もない。
どうでもよかったんだ。まわりにとっても。俺自身にとっても。
俺が野球を続けることになんて何の価値もなかった。
そう思ったら指一本動かせなくなって、何日も寝込んだ。
敗北感。
痛むのは右肩だけだったのに、体を動かせなかったんだ。
気力が底をついた。
同じだ。あのときの感じと同じ。程度は多少ゆるいけれど。
今、ゴミの山に埋もれて見上げる小さな青空と、あのとき家の布団に寝そべって見つめていた天井が同じだ。
青空と天井が同じはずはないよな。だけど同じだ。
手が届かない。手が届かない世界が俺の意識とは関わりなくそこにある。
目を閉じても眠ることができない。たとえ眠ってもまた目が覚めてしまう。
消えてしまいたかった。
俺には何の価値もない。
それなのに、意識だけは消えてくれないのだ。
俺はここにいる。