「ねぇ、亮ちゃん」
「何だ?」
「私が生きててガッカリした?」
「いや、ガッカリなんて別に……」
「うんうん。生きて再会できて感激だよね〜」
「何言ってんだ」
「亮ちゃんは、今、学生さんなんだよね?」
「ああ、そうだな」
話した覚えはないが、見ればわかるということだろう。
「学校に行って、学を身につけて……長生きする予定なのかな?」
「どうだろうな。単に決断を先送りしてるだけじゃないか?」
自分のことなのに他人事のような言い方を俺はした。
「キリエは、この近くに住んでるんだよな?」
ここにゴミを捨てにきているのだから。
「そういうことになるね」
「じゃあ、また会うこともあるってことかな」
「お互いに生きてれば、ってやつだね」
俺はその場でキリエと別れた。
連絡先さえ聞かなかった。
──私が生きててガッカリした?
訊かれたとき、答えに迷った。
その通り。俺は「ガッカリ」したんだ。
さんざん自殺をほのめかしておいて結局死んでないのだから。
勝手な言い方かもしれないが、裏切られた気分がする。
なぜそう感じるかと言えば、俺自身が自殺ということに、なにがしかの期待を寄せていたからだ。
人生。世界。生まれてきたこと。
そうしたものを押し付けられて、さらに感謝さえ強要されている現実。
そんなクソったれな現実をひっくり返してやりたいと心のどこかで今でも思っている。
キリエは俺と同じ願望を抱いている仲間だと思っていたんだ。
いや、先に裏切ったのは俺の方なのだけれど。
だからこそ、俺の「ガッカリ」は勝手なことなのだけれど、だからこそ、勝手ついでに、俺はどこかで期待を高めていたのだ。
期待の内容とは、つまりこうだ。
"キリエならやってくれるんじゃないか?"
やってくれる、とは何を?
俺には出来なかったことを。
つまり俺は、キリエが死んでいれば満足だったのか? キリエの墓でも見たかったというのか?
そういうことではない。そういうことではないのだ。
何か、突破口を見せてくれるのではないか?
そういう期待を抱いていたのだ。実に勝手なことではあるけれど。
もちろん、自殺が難しいということは俺だってよくわかっているつもりだ。
自殺は難しい。
だからこそ「先に諦めて裏切った」のだろう?
キリエに文句を言う資格など俺にはない。
では誰ならばそのような資格を持ち合わせているだろう?
そんな人間はこの地上のどこにもいない。なぜなら生きて地上に存在しているということ自体がその資格がないことの証明だからだ。
そして、だからこそ、生まれてきたことはそれ自体ですでに不幸なことなのだ。そうだろう?
今日もやはり出口のないまま地球は回る。