「たとえ法律が許しても、警察が許しても、国家が許しても、神が許しても仏が許しても……この私が許しません!!!!」
先輩の怒声が室内の空気を揺るがした。
さきほどまで背後で無心に電話を続けていた人々も一斉に受話器を手元に落とし、驚きとも放心ともつかぬ表情で先輩に視線を奪われている。
「おまえの言い分はよくわかった」
静まり返った室内で先輩と二葉の視線がぶつかり合う。
「だが私は同意しない。以上だ」
二葉は表情一つ変えず言い放った。
先輩の必殺技が効いていない!
「これ以上のあなたの身勝手な行動はこの皆月多恵子が見逃すわけにいきません!」
「言うまでもないことだが、おまえと私は別々の人間だ。
おまえにはおまえの言い分があるのだろう。
だがおまえがいくら言葉を尽くしたとしても、他人である私を、おまえの意志で操ることはできない」
おまえにはおまえの言い分があるのだろう。
だがおまえがいくら言葉を尽くしたとしても、他人である私を、おまえの意志で操ることはできない」
「じゃあ、どうすればやめてくれるの? 条件があるなら言ってちょうだい」
「条件などない。私の行動は私が決める。それだけのことだ」
「そんな……!」
「宇宙は広いが自分の意志で動かすことができるのは自分の肉体だけだ。
おまえは私ではない。ゆえに、おまえは私を操れない」
おまえは私ではない。ゆえに、おまえは私を操れない」
「たしかにそうだけど……だけど、こんなのおかしいよ! おかしいよ二葉さん! あなたは本当にそれでいいの?!」
「なぜ私に訊く? 私の行動を "よくない" と思っているのはおまえなのだろう?
ならばこれはおまえの問題なのではないのか?」
ならばこれはおまえの問題なのではないのか?」
「そうかもしれない。
だけど……あなたは私が何を言っても考えを変えるつもりはないんでしょう?」
だけど……あなたは私が何を言っても考えを変えるつもりはないんでしょう?」
「そうだな」
室内が再び静まり返る。
先輩は言葉を失っており、その他の誰も言葉を発しようとはしない。
ただ一人、表情を変えないのは二葉だけだ。いや、初めから表情がないと言うべきか。
先輩とぶつかり合っているように見える視線も傍からはそのように見えるだけなのであって、本人としてはそのような意図はないのかもしれない。
「一つだけ方法がある」
思いついたかのように、淡々とした口調で二葉が口を開いた。
室内の緊張した空気の中心にいながら、まるで一人だけその外側にいるかのようだ。
「それは何?」
「さっきから何度も言っているが、おまえは私ではないから、おまえが私を動かすことはできない。
だがそれも物理的な制限の上でのことだ。
私が唯一私の意志で動かすことができるのは私の肉体だけだが、それを物理的に制限されれば私の意志はこの物質界において意味をなさなくなるだろう。
たとえば私が死ねば、この肉体は私の意志を代行する物体ではなくなる」
だがそれも物理的な制限の上でのことだ。
私が唯一私の意志で動かすことができるのは私の肉体だけだが、それを物理的に制限されれば私の意志はこの物質界において意味をなさなくなるだろう。
たとえば私が死ねば、この肉体は私の意志を代行する物体ではなくなる」
「それはつまり……暴力で、ということ?」
「そうとも言うかもしれない」
「他に方法はないと言うの?」
先輩は思いつめた様子だ。
一方の二葉は、相変わらず表情を変えない。
「おまえがどうしても他人である私の行動に介入するというのなら、そうする以外にない。
そしておまえにそうする意志があるのであれば、それを他人である私が止めることもまた不可能だ。
そして、もしもそうなのであれば、運動能力の低い私に勝ち目はない。折原亮介もおまえの味方になるのであればなおさらだ」
そしておまえにそうする意志があるのであれば、それを他人である私が止めることもまた不可能だ。
そして、もしもそうなのであれば、運動能力の低い私に勝ち目はない。折原亮介もおまえの味方になるのであればなおさらだ」
「本当に、あなたはそれでいいの……?」
「私が決めることではない。おまえの行動を決めるのはおまえだ」
「私が決める……」