「亮介、待っていたぞ」
ずっとここで立って待っていたのだろうか?
知子が待っていたと言うのだから、もしかするとそうなのかもしれない。
「昨日約束した通り、私はおまえを理解しようと思う」
どうやら何か話があるようだ。
俺は知子から目を逸らさないように後ろ手に扉を閉めて、知子の言葉を待つ。
「だが、知っての通り、超能力者でもない限り他人を理解することは誰にもできない。
さらに言えば「他人」などというものが本当に存在するのかどうかさえ、私は怪しいと思っている。
自分以外の人間が全てロボットか何かなのではないかと思ったことは、誰にでも一度や二度はあるのではないだろうか?」
さらに言えば「他人」などというものが本当に存在するのかどうかさえ、私は怪しいと思っている。
自分以外の人間が全てロボットか何かなのではないかと思ったことは、誰にでも一度や二度はあるのではないだろうか?」
俺は……?
ある。
だが、日常的に他人と関わり続ける中で、忘れてしまう疑問だ。
しかし忘れているだけであって、答えが出ている疑問ではない。
あるいは「考えても仕方がない」と、目を逸らすことが、あたかもこの疑問を乗り越えることであるかのようにうそぶく。
そして実際、どう考えても答えが出るとは思えない。つまり難問なのだ。
俺のようないい加減な人間にとっては、目を逸らしたまま日常の雑事で気を紛らわし続けることも難しいことではない。
だが知子にとってはそうではなく、ずっと目の前に生々しく存在し続ける疑問であり続けていたのではないか?
「ああ、私は今、矛盾したことを言ったな。
"他人が存在しないかもしれない" と言っておきながら、 "誰にでも一度や二度はあるのではないか?" と、他人の……心の存在、を、想定、前提とすること、を言った。
つまり……私は、物事を正確には理解していないということだ。
私が「正しい」と思っていることの中で、確実に「正しい」と言えることなど、何もない。
"他人を理解することは誰にもできない" と言ったが、それも、もしかすると正しくないのかもしれない。
亮介は、私にとっての他人だ。
他人だが、理解することが、可能かもしれない。
他人だが、存在しているのかもしれない。
私は、亮介が存在していないとは思っていない。
理由は、わからない。
そうなんだ。わからないことだらけなんだ。
わからないということは、可能性があるということだ。
だから私は "亮介が存在していて" しかも "理解が可能である" という、その可能性を探ってみようと思う」
"他人が存在しないかもしれない" と言っておきながら、 "誰にでも一度や二度はあるのではないか?" と、他人の……心の存在、を、想定、前提とすること、を言った。
つまり……私は、物事を正確には理解していないということだ。
私が「正しい」と思っていることの中で、確実に「正しい」と言えることなど、何もない。
"他人を理解することは誰にもできない" と言ったが、それも、もしかすると正しくないのかもしれない。
亮介は、私にとっての他人だ。
他人だが、理解することが、可能かもしれない。
他人だが、存在しているのかもしれない。
私は、亮介が存在していないとは思っていない。
理由は、わからない。
そうなんだ。わからないことだらけなんだ。
わからないということは、可能性があるということだ。
だから私は "亮介が存在していて" しかも "理解が可能である" という、その可能性を探ってみようと思う」