すでに昼過ぎだが、これまでに来た客の顔を全て思い出せるほどだ。
そして、用意した景品はほとんど減っていない。
中でも、籠Eに盛られた知子製のフィギュアは全くの手付かずだ。
「せっかく頑張って作ったのになぁ……」
いや、頑張ったのは知子だ。
俺はただ、買ってきた材料を知子に言われるままに手渡していただけだ。
「作った人間が頑張ったかどうかなど、他人には関係のないことだからな」
確かに知子の言う通りだ。
俺としても、仮に何も知らない客の立場だったら今手の中にある知子製のフィギュアを選ぶかどうかは怪しい。
俺は知子がフィギュアを集めているだけではなく作ってもいると聞いたとき、驚いたのだ。
そして作られたものを実際に見たとき、その出来栄えに感動したのだ。
今俺の手の中にあるものの出来栄えも、あの日部室の棚で見たものと何の遜色もない。
短い制作時間での大量生産とはいえ、1つ1つがどんなに丁寧に作られたのかも間近で見て知っている。
だが実際、知子の言う通り、そんなことは他人には関係のないことなのだろう。