俺は重要なことを1つ見落としていたようだ。
たしかに、ここの警備が手薄だという俺の見立ては間違っていないかもしれない。
だが、それ以前の前提が間違っている。
ここの闘士たち同士で協力することが不可能なのだ。
闘士たちは厳格な上下関係でお互いにお互いを縛っている。
自分以外の人間は2種類しかいない。自分よりも上の人間か、下の人間。
上の人間の目を恐れ、目立たないように息を殺し、隙あらば下の人間を搾取する。
こんな環境で仲間と言えるような人間関係は成り立たない。
他人を信用できない環境で、お互いにお互いを監視し合うことで、上下関係が醸造されている。
文字通りの意味で、誰も自ら進んでこの秩序の外に出ようとはしない。出ることができない。
警備が手薄なのも当然だ。
本当は警備など必要ないのだ。
あの黒服の男たちは単に、ここが被支配下の世界であることを各メンバーに示しておくための飾りなのだ。