「今日は楽しかったなぁ……」
キリエが今どんな表情をしているのか、通路側に座る俺の位置からは見えない。
「発掘も楽しかったし、他にも今日は、いろいろとたくさん、楽しいことがあったなー」
体験会の主催地から自宅のある街までの長距離を、朝とは逆向きに、電車に揺られて戻る。
長時間に及ぶ電車での移動も、窓の外を流れる景色を見ていれば苦にならない。
朝のその言葉の通り、キリエは窓の向こうを見つめて静かに座っている。
「今日は楽しかった。うん。楽しかった」
確かめるように、静かに繰り返す。
「きっとこの世には楽しいことが他にもたくさんあるんだろうね。
もっともっと、いっぱい、いっぱい、あるんだろうね。
でも、キリがないね」
もっともっと、いっぱい、いっぱい、あるんだろうね。
でも、キリがないね」
日は既に沈んでおり、窓の外は暗闇に覆われている。景色は何も見えない。
キリエは窓枠に肘をついて窓の外へ目を向けている。
どんな表情をしているのか、通路側に座る俺の位置からは見ることができない。
キリエは身動き一つせず電車に揺られている。まるで電車の振動さえキリエの体には伝わっていないかのようだった。