「さて、順番から言うと、次は私それを写したいんだけど……」
キリエは俺がやっている問題集を指差す。
「もうすぐ終わりそう?」
「そうだな。今、第6章の問8まで書いたところだから……」
と、そこで俺は違和感に気付いた。
「あれ? ここが問8で……」
自分が今書き写した問題の内容と、番号が、合っていない? いや、きっと気のせいだ。
「えーっと、ここが問1で、次が問2で……」
まさか。
「亮ちゃん、顔色が悪いよ?
これはひょっとして、例のアレですかな?」
「ズレてる……!」
「あーあ、やっちゃったねー。やっちゃイケないことをやっちゃったねー」
余計なことを考えながら書き写していたせいか、問題と答えをズレて書き写してしまっていたようだ。 人の答えを写すときに特有の罠に見事に嵌ってしまった。
「さて、一体、どこからズレてたのかな?」
キリエは楽しそうに俺のノートを手に取り、パラパラと前のページをめくって問題集と見比べる。
「おやおや、これはまたずいぶん前までさかのぼることになりそうだね。
最初からやり直した方が早かったりして?」
「気楽に言ってくれるよな……」
今まで苦痛に耐えて書き写してきた作業が大幅に無駄になってしまった。
また同じことを繰り返さねばならないのかと思うと、全身に激しい脱力感が襲ってきた。
同じことどころか、間違って書いた箇所を消す必要もある。いっそノートのページを破った方が早いだろうか?
「どこかの国の刑罰で、穴を掘って、また埋め戻して、ってのを繰り返させられるのがあるって話を思い出したよ……」