「キリエ! 行くな!」
両腕でキリエの胴を力一杯挟む。
両足を床に踏ん張り、キリエの体がそれ以上前に進まないようにする。
鼻先に、キリエの後頭部の髪が触れている。シャンプーの匂いがした。
「あはは。止めちゃったね」
「な、なんだよ……」
「止めたってことは、生きてる方がいい理由を教えてくれるってこと?」
「それは……」
「無責任」
「え?」
「人って、わりとカンタンに死んじゃうけど、でも、自分の意志で死ぬのって、難しいんだよ。
せっかく死ねるかもしれなかったのに、亮ちゃんに邪魔されちゃった。
亮ちゃんのせいで、まだ生きてなきゃいけなくなったんだよ。責任取ってよ」
せっかく死ねるかもしれなかったのに、亮ちゃんに邪魔されちゃった。
亮ちゃんのせいで、まだ生きてなきゃいけなくなったんだよ。責任取ってよ」
生きる理由。
それを知らないくせに、死のうとする他人の意志を妨げる権利が俺にあるのか?