「あ、そうだ亮ちゃん、言い忘れてたんだけど」
気だるそうな仕草でパンの上にマヨネーズを絞り出しながら、キリエが口を開く。
「今夜、お父さん帰ってくるから。
私も今日はバイトないし、早めに帰るね。
お父さん、亮ちゃんに会いたがってたから、亮ちゃんも早めに帰って来てね」
私も今日はバイトないし、早めに帰るね。
お父さん、亮ちゃんに会いたがってたから、亮ちゃんも早めに帰って来てね」
キリエの父親。この家の主。
俺の父の学生時代の友人で、その縁で俺をこうして居候させてくれることになった。
どこかの大学の教授で、キリエと2人暮らしだが、研究が忙しいため、あまり家にはいないらしい。
噂によると母親は外に男を作って出て行った……とかなんとか聞いているが、あくまで噂の域を出ない。
あまり他人の家庭の事情は詮索しないことにしよう。
「たしか、考古学の教授だったっけ?」
俺は話題を当たり障りのない方向に向ける。
キリエの父が家にあまり帰れないのは発掘調査で旅行に出かけることが多いせいだと聞いている。
「違うよ」
口に食べ物が入った状態でキリエが短く答えた。
コーヒー溶液で口の中身を喉に流し込み、キリエは言葉を続ける。
「教授じゃなくて、准教授」
違うというのはそっちか。
と言われても、どう違うのかはよく知らない。教授よりも肩書きの序列では一歩譲るということだろうか。
「あの人、要領悪いから、教授にはなれないんだよ」
「辛辣だな」